和光稲門会
会員コラム


 理化学研究所のサイクロトロンを見学して
宇波信吾(81年法卒)

 関東地方が梅雨明けした翌日、7月10日(日)午後1時過ぎ、和光市駅前に朝霞・新座・和光の稲門会の会員とその家族約30名が集まりました。今日は、和光稲門会の加瀬幹事長の案内で幹事長のお勤め先の理化学研究所(理研)和光研究所にある世界最大のサイクロトロンを見学させていただけるというのです。私たちは、梅雨明け早々、真夏のような強い日差しが照りつける駅前からタクシーに分乗して、駅から10分程の研究所に向かいました。

 私たちが訪れたのは、研究所の東に位置する仁科加速器研究センターのRIBF(ラジオアイソトープ・ビーム・ファクトリー)棟です。最初に入り口から少し入ったホールで、冷たいお茶をいただいて喉を潤し、加瀬幹事長から施設の説明を受けました。この地下に、世界最大の超伝導リングサイクロトロンがあるとのことです。

 RIBFやサイクロトロンの詳しい説明は理研のホームページにお譲りする(理研は日本が世界に誇る研究施設です。是非、一度、ホームページをご覧下さい。)として、当日、いただいたパンフレットからかいつまんでお話しすると、

 @全てのものは原子核からできているが、原子核の寿命、重さ、大きさ、どのようにしてできたのかといったことがナゾだらけである。

 A原子核を調べるためには、子供がおもちゃを壊して中身を調べるように、原子核を壊して調べるが、それには、原子核を光速の70%まで加速させなければいけない。

 Bこの原子核を壊すために、原子核を加速する装置がサイクロトロンとのことです。

 RIBFにはサイクロトロンが4台あり、原子核は4台のサイクロトロンの中で徐々に加速されます。実験にはウランが使用されているとのことで、サイクロトロン見学の前に、入り口で靴に防護カバーを装着しました。原子力発電とは比較にならないと思いつつ、微量ながら、放射性物質を利用する研究施設なのだと感じました。

 エレベーターで地下2階に降りると、真夏の暑さとは別の世界のように涼しくて、なかなか快適です。少し歩いて行くとやがて六角形のような形をした巨大な鉄の塊が見えてきました。これが、超電導リングサイクロトロンです。

 とにかく大きいというのが一番の印象です。発電所のタービンに似ているようにも思いましたが、直径が18.5メートルで、重さは何と東京タワーの2倍の8300トンとのこと。参加者は皆、この装置の大きさと重さに一様に驚いた様子です。装置の中には6基の超伝導電磁石があって、他の3つのサイクロトロンで光速の47%まで加速された原子核が、この装置でさらに光速の70%まで加速されるとのこと。超伝導電磁石では、加速に必要なエネルギー(電力)が従来に比べて100分の1で済み、非常に省エネタイプの装置です。

 加速器は巨大なコンクリートの塊で周囲を覆われ、言ってみれば大きなコンクリートの箱の中に設置されています。先日の東日本大震災の際も、特段の問題は発生しなかったとのことです。ただ、震災以降の節電対策のため、9月までは稼働されないとのことでした。

 私たちの見学は残念ながらここまでですが、破壊された原子核は、サイクロトロンのさらに先にある研究施設で、形、反応、重さ、大きさが調べられます。この施設では世界で未確認だった新しい113番元素の発見に成功しており、世界で認められれば、日本が初めて元素の名前を付ける権利を得るとのことでした。さらに、原子核の構造を研究すると同時に、例えば発生したビームで塩分に強い植物を作ったり、がん治療に応用したり、環境、医療、材料、エネルギーといった分野で、様々な研究も進められているとのことです。

 サイクロトロンの見学後、1階のホールに戻って、ブロックで作った「核図表」の模型の前で、加瀬幹事長から原子核、陽子、中性子などの説明を伺いました。質疑応答では、やはり福島の原発事故に関連する質問が多く出ました。ここでは、危険な放射性廃棄物に含まれる寿命の長い放射性物質を、短時間で放射能をゼロに近づけるための基礎研究も進められているとのことでしたが、実用化まではまだかなりの道のりがあるようでした。

 国の財政状態が極めて厳しい中で、「世界で二番目ではいけないのですか」という、基礎研究に対する無理解な発言が話題になったことがありました。確かに、今回の施設を見学してその大きさに圧倒されましたが、これにかなりの予算が費やされていることも事実だと思います。しかし、「未知の113番元素の発見」、「はやぶさによる小惑星からのカプセル回収」、「世界一のコンピュータの開発」といった研究が、次の世界を切り開くフロンティアであり、こうした研究がさらに新たな実用的な発見に結びつくのだと思います。

 折しも、この会員コラムの執筆中に、スポーツの世界で、諦めずに世界一を目指したサッカーの撫子ジャパンの選手たちの大活躍がありました。未曽有の大災害を被った日本ですが、「難局にあっても、常に前に進む努力を怠らないこと」の大切さを、強く感じるこの頃です。RIBFは、残念ながら節電のため研究が中断されていますが、暑い夏が終わって研究が一刻も早く再開され、次のフロンティアを目指して欲しいと思います。

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